やくそくって絶対にやぶっちゃいけない?


 Movie for Philosophy                    

【導入動画のあらすじ】

ある日のゆっぴー(中学1年生)

友達との約束をすっぽかされて怒り心頭!約束をして遊ぶのを楽しみにしていたのに…、母に相談してみます

「どうしてお友達は約束を破ったのだろう?」

約束って一度結んだら、ぜったいにやぶっちゃいけないのかな?」 

相手の立場にたって考えはじめてみます。

みなさんは、どう考えますか?



ー哲学対話の記録

F=ファシリテーター(指導者)
C=子どもたち それぞれの発言を指します。

F:動画をみてもらいましたね。それぞれどんな考えがでていた?
C:約束をしたら守るべき。だって、相手からの信頼が下がってしまうから。
C:約束をしたけれど、しかたなく守れないときもある。
C:安全とか命とかにかかわる約束は絶対にやぶっちゃダメ!
C:おたがいが納得しない約束は守らなくてもよい。

F:みんなが最近した「やくそく」を教えてくれる??
C:こないだコンビニで、知らない人となんか約束した
C:それ不審者??
C:不審者じゃないけど、ちょっと怪しい人。

F:それって約束なの?
C:相手からしたら、たぶん約束。 C:この時間が終わったら、ここでお母さんとご飯を食べるって約束
C:こないだ、花火大会にいく約束を友だちとした
C;学校で明日小テストがあって、友だちと一緒に勉強しようって
C:学校が終わったあとに、友だちと遊ぶ約束をした

F:守れなかった約束ってある??
C:遊ぶ約束をしたけれど、用事ができて守れなかった
C:約束したけど、思ってもない緊急事態が起きて守れなかった
C:風邪ひいたり熱がでちゃって約束の場所まで行けなかった

F:風邪ひいたりとか緊急で約束やぶられちゃったら、それは??
C:それは、しょうがない。
C:風邪を無理して遊んでも、もっと悪くなっちゃうし。
C:こないだ台風きたときとか、天気はしょうがないな。

F:じゃあ、5時に会おうって約束していて、行くのが5時30分になっちゃったらそれはやぶったことになる?
C:会うって約束は守っているわけだから、やぶったことにはならない。
C:うーん、微妙。半分守って、半分やぶってる。マルでもバツでもない、サンカク。
C:私は待つのが本当に嫌いだから、バツ。許せない。5時に来いって思う。

F:本当は約束をしたくないのに、約束しちゃうようなときはある??
C:ある。先輩とか年上とか。いやだなーって思ってもちょっとしちゃう。
C:私は無理なときはきちんと断る。

F:それは友だちじゃなくて、親とか先生でも??
C:ヤダって思ったらそう伝える。
C:いやな宿題が出たときは、先生にヤダって伝える。
C:でも出されたものはしょうがないときがある。

F:ん?先生から出される宿題は、先生との約束なの?
C:え、違う。たしかに約束した覚えがない
C:やれって言われるから、やる。でも自分のため。そうそう。それがふつう。
C:微妙。これをやりますよって前に言われることもあるけど、いきなり言われることもある。
C:約束ってわけじゃないけど、私たちへの思いやり?

F:ほかには誰とどんなふうに約束してる??
C:遊びにでかけるときに6時までにはかえってくることが約束。
C:でもそれって約束なのかな?
C:相手が誰でも、二人がOKって言ったら約束だと思う。
C:質問なんですけど、おかあさんは約束だって思ってるのかな?
C:思ってないかも。ルール??

F:どんなふうに約束ってするの?
C:指切りげんまんとか。
C:話し合って、おたがいに「いいよ」って言ったら、はじめて約束。
C:でも、約束の仕方は人によって違うと思う。お母さんとか友達とか、だとそうだけど、妹だったら「やって」って。命令?

F:「指切りげんまん」して約束やぶられたら針千本飲ませるの??
C:それはやったことない。
C:替え歌でやってる。しっぺするとか。

F:約束をうっかり忘れちゃったって場合は、破ったことになる? ならない?
C:それはしょうがない。
C:やぶったことになると思う。

F:となると、許せる約束のやぶり方と、許せない約束の破り方がある? 許せないのはどんなとき?
C:いやがらせで破られたとき。
C:友達と約束したけど、前にも他の友達と約束してて、あとから約束したほうを優先されたとき。
C:質問なんですけど、年上とか家族との約束は守らなきゃいけないって思ってる人はいますか??
<10秒考える>
C:べつに破ってもよくない?
C:あんまり年上から声かけられないからわかんない
C:やりたくないときは相手が誰であろうと約束しない。

F:破ってもよいって約束はあるの??
C:変な人とか知らない人との約束。
C:あいまいな約束? よくわかんないからいっかーみたいな。遊ぶ約束はしたけど、何時にどこでって約束しなかったとき。

F:約束やぶったらどうなるの?
C:友達が怒っちゃって、無視されたことがある。
C:逆に、すっごい心配されて、なにがあったの?って。
C:仕返しで、すごい嫌がらせを受けたことがある。

F:約束をやぶられたときはどうする?
C:まず理由を聞く。どうしたの?って。
C:私、うっかり忘れはどんなに仲良くても死んでも絶対に許せない。
C:台風とか熱がでたとかだったら、連絡できるけど、うっかりだと約束自体を忘れてるわけでしょ? 連絡も来ないし、ずっと待ってる自分ってなに?ってなる。人のこと待たせてるのにさ。
C:すっぽかされたら絶対嫌、悲しい。
C:すっぽかされると、ちゃんと約束してるのに、自分のことを忘れちゃうくらいなんだから大切にされてないって感じる。
C:もしすっぽかした人が親友だったりしたら、ちょっと腹立つけど、すぐ許せる

F:そのうっかり忘れは何回まで許せる?
C:1回でもダメ。絶交。
C:相手によって違う。仲いい友達だったら、4回くらいまで平気。
C:自分の苦手な人とか、嫌いな人とかだと無理。
C:質問なんですけど、例えば、友達とはすぐ行くねって約束したけど、家帰ったらお母さんに宿題やってから行ってっていわれたときは、どっちを優先しますか??
C:おかあさんのほう。怖いから。
C:私は両方できるようにすればよいと思う。まず友達と会って、先に宿題を終わらせてから遊ぶとか。
C:家族のほうが一緒にいる時間が多いし、無視されたらこまるから、友達より家族のほうを優先する。
C:私は友達。宿題は帰ってきてからでもできるから。
C:そういうときはお母さんに、友達が例えば週に1回しか塾とかで遊ぶ時間がないからって理由を伝えて、かわいく「いいでしょ?」って甘えるようにいう。

F:じゃあ、ぜったいにやぶっちゃいけない約束ってある??
C:うん、ある。自分の身体に関わること。アレルギーとか食べちゃいけないものとか。
C:お父さんのスマホのパスワードを教えないって約束。
C:命とか安全にかかわること。門限とか、赤信号とか。
C:勉強にいくときは、おしゃれをしてはいけないってお母さんと約束してる。
C:お葬式とか、結婚式とか、とにかく優先して出なきゃいけないとき。

F:じゃあ、最後。もし自分が約束を破っちゃったってときはどうするの??
C:とにかく謝る。でも、本当にだめなときはずっと無視されたりする。
C:理由をいって謝る。
C:たくさん謝っても許してくれなかったら、逆ギレして、もういい!絶交ってその場を立ち去る。

F:はい。時間がきたので今日の話し合いはおしまいです。ありがとうございました。

※これは小学1年生~6年生までの子どもたち21名が、1つの輪になって話し合った記録です。

 

 


ー対話を深める問いかけの言葉

 

 ・約束についてそれぞれの意見が出ていたね。どんな意見が出てた?

 ・その意見の中で自分の考えに近いものはある? 理由は?

 ・みんなは誰とどんな約束をしていますか?

 ・約束ってどういうふうにするの?

 ・その約束の中でやぶっちゃった約束ってある?

 ・約束をやぶられたことはある? そのときはどうしますか?

 ・自分が許せない約束のやぶられ方ってある?

 ・やぶってよい約束ってある?

 ・ぜったいにやぶっちゃいけない約束ってどんなものがあるかな??


ー 対話をおえて(ふりかえり)

 

今回のテーマは「約束って絶対にやぶっちゃいけない??」

こうした問いかけは、子どもたちが日頃どんなふうに行動しているか、その原理・原則や倫理を問うものです

誰とどこでどんな約束をしているのか、まずは具体的な経験や体験を出し合うことからはじめるとよいかもしれません


私たちの取り組みでは、まずは経験を出し合ったあと、

➀約束が成立するときの条件

➁約束をやぶってもよいときはどういうときか

➂自分/相手が約束を破ったらどうするか

➃本題である、破ってよい/いけない約束とは何か、というふうに話が進んでいきました

 

約束との向き合い方は本当に子どもたちそれぞれによって異なっていることがわかり、できないような約束ははじめからするべきではない、という厳しい見方もあれば、自分もやぶっちゃうから相手がやぶっても許せる、もしくは病気や緊急事態などはしかたがない、などさまざまでした

 

中でも意見がわかれたのは「うっかり忘れ」の約束破り

自分が軽視されているような気がして「死んでも許せない」なんて発言まで出たほど


こうした各自の行動原理や様式を改めて考え話し合うと、子どもたちの世界なりの暗黙のルールや人間関係の作り方、手続きの方法が成立しているということを垣間見られることでしょう

 

 


記録・ファシリテーター

◆川上和宏◆

1984年、群馬県生まれ / 大人の秘密基地arcoiris 共同店主

杉並区社会教育センターにて社会教育・生涯学習の企画運営に携わったあと、

2013年にアルコイリスを起業・運営

千葉大学大学院教育学研究科卒、東京学芸大学博士課程満期取得退学

大人向けの哲学対話の場、哲学カフェ@アルコイリス・主宰

その他、この世界について他者と対等に語り合うための場づくりをお店にて実践中