Movie for Philosophy
【導入動画のあらすじ】
ある日のゆっぴー(中学生)
学校で友だちがケンカしたことを母親に打ち明けます
先生からは「どんな理由でも人をたたいてはいけない」と言われますが、小さいころに見ていた正義の味方のアニメ…
悪さをする人をすぐ殴ってしまうのってよいのかなぁ?
正義ってなにか考えはじめます
みなさんは、どう考えますか?
ー哲学対話の記録
F=ファシリテーター(指導者)
C=子どもたち それぞれの発言を指します。
F:今日のテーマは正義ってなぁに?です。正義ってどんな?
C:いじめられている子を守ること。
C:地球を守る。
C:親友のために犠牲になる。
F:犠牲ってわかる?どういうこと?
C:たとえばでっかい怪獣がやってきたとして、もしかしたらだけれど、どちらかが食べられたら怪獣がおさまるとして、食べられること。そんな感じ。
C:親友が困っていたら助ける。
C:正義の人は、いい人のこと。
C:魔物と戦うこと。
C:酔っぱらいがからんできたら、守る。
C:犬とか動物を守ったりすること。
F:何から? 誰から誰を守るの?
C:悪いやつから守る。
C:ジャイアンから守る。
F:ジャイアンは悪なの? 小学5年生だよ?
C:だってジャイアン強盗だもん。
F:強盗なの?
C:だって、殴って奪うもん。ゲームとか漫画とか。だから悪。
F:おおう。それは強盗だね。
C:ドラえもんが銀河消滅爆弾を使おうとしたときにのび太が止めたことがあって。だからのび太は正義。
F:ん?となると、ドラえもんは悪になるの?
C:ねずみがいたときだけ悪になる。
F:じゃあどっちも悪なの?
C:うーん、いいときもある。中途半端(どちらとも言えない)
F:話をかえるけれどアンパンマンっているじゃない?アンパンマンはどう?
C:うーん、アンパンマンは話し合いをしないで、アンパンチって殴るから、ちょっと…。
F:アンパンマンは正義って思う人ってどれくらいいるかな? 正義だって思う人は?
〈1人だけ手をあげる。微妙・どちらでもないが多くの人が手をあげる〉
C:アニメの主人公はみんな中途半端。
F:中途半端の理由は?
C:さっき言ったとおり、話し合いができることが一番正義。だけれど、テレビ出しアニメだから、子どもが楽しめる話にしてるだけだから。正義でもなんでもない。
C:話がドラえもんに戻ります。ジャイアンは作者によって、そうさせられているだけで、ジャイアンの意思では何もできないから。
C:アンパンマンも作者がそうしているから、作者が悪い。
C:わざとバイキンマンが悪いように書いているから。
C:そもそもバイキンマンって、なんの目的であんなことやってるんだろう?おれもわからないけれど。
C:アンパンマンってさ、いきなりバイキンマンをさぁ倒すぞってやっていくじゃん。それがどうかなって。今日も倒すぞって一気にいく。
C:一番、話しあってないよね。アンパンマンとバイキンマン。
F:となると、ばいきんまんやジャイアンが悪いわけではなくて、作者がわるい?
C:うん、そう。
C:ドラえもんでさ、しずかちゃんのお風呂を覗くじゃない。あれ、すっごい悪い。
F:お風呂を覗くのは悪いこと?
C:うん、すっごい悪い。
C:最悪。痴漢ともいえる。
F:他には? 悪いことはある? 話し合いをしないのは悪いこと?
C:殴るとか、ぶつとか。
C:そう。手とか足とは、殴るためにあるわけじゃない。
F:アンパンマンはアンパンチって殴るじゃない。じゃあアンパンマンは悪い人?
C:だから、中途半端。
C:他の人を助けたりもするし。
C:アンパンマンが殴っちゃうのは、頭の中身がアンコだから、頭が悪いから仕方ない。
F:たたくのは悪いとするけど…人に刺されそうになって、自分を守ろうとして人をたたいたらそれは悪?
C:それは悪いことじゃない。そもそも、包丁を持ってる人が悪。
C:自分の身を守るためだから。
C:そんなシーンで話し合いをしていたら、自分の命が守れないから仕方ない。
C:話が動物にうつります。ハリネズミやコブラは、自分が襲われないようにやってるわけだから、それはしょうがない。
F:動物はさ、他の動物を襲って食べるじゃない? それは悪?
C:野生の世界だからさ、人間の世界のように善悪とかないんじゃない?
C:人間も同じように、豚とか鶏とか食べてるから、生きるために。それは悪じゃない。
C:自然には自然のルールがある。強いものが生き残る。それが自然の掟。
F:となると、動物の世界には正義はない??
C:うん、そう。正義とか悪とかなくて、食べるためにやってる。仕方ない。
C:クマとかも、人間から襲われると思って、怖いから、逆に襲う。
C:こわくて襲っちゃうのは仕方ない。
F:となると? 正義や悪って?
C:人間はたくさんの動物を殺すし、自然を破壊しているから人間が悪。
C:人間全体が悪?
F:自分は悪だと思う人は?
<3人手をあげる>
C:人間がゴミを捨ててて、そのゴミを魚が食べて、その魚を結局人間が食べたりして、人間が腹を壊す。自業自得。自然からの復讐。
C:大人が悪い。だいたい。
F:子どもは悪くない? 悪いことはしないの?
C:いや、する。人たたいちゃったり。
C:ケンカするけど、仲直りしたりする。いいときも悪いときもある。
F:となると? 人間は?
C:だから中途半端。悪にも正義にもなる。
C:結局人間ってすべてが完璧じゃないんじゃない?
C:悪にもレベルがある。人を殺すまで殴るのはよくない。
C:ゲームとかで勇者が魔物を倒すけれど、それは正義なの?
F:魔物ってさ、魔物なだけじゃん。それを倒すのはよいのかな?
C:でも魔物は人襲ったりするじゃん。
C:魔物にもいいやつと悪いやつがあるじゃん。
C:そもそも、正義の意味の、ほんとうのほんとうの意味って…なにかな??
C:生き物を、殺したりするじゃん。それって嫌だなーって。
F:じゃあなにが正義?
C:生き物を殺さずに生きること。
C:でも食べるためだから仕方ない。
C:生きるために食べるし、いいことも悪いこともやるから、正義だって言い切れる人はいない。
C:そもそも正義って言葉を作ったひとは、こうやってみんなで今考えているようなことを、考えずにつくったわけじゃん。だからその言葉を考えずにつくったから、今ぼくたちは困ってる。
C:正義は、正しいことをすることだと思う。
C:ふつうの正義は、殴らずに話し合って決めることだと思う。
C:戦争をしないって約束するとかね。
C:戦争とかを、止めることが正義なんじゃない?
F:となると、アンパンマンがバイキンマンに、話し合うことを提案したら正義?
C:うん、そう。
F:話し合いに応じなかったら?
C:離れればいいと思う。
C:バイキンマンがいなくなればよいでしょ。
C:二人でダメだったら、別の人も考えを伝える。
F:バイキンマンの気持ちになってみようか。彼はなんで悪いことしちゃうの?
C:お腹すいてるからじゃない?
C:お母さんがいないから、ごはんが買えないってことがある。
C:バイキンマンって子どもなの?
C:寂しいんじゃないかな。
C:作者がそう設定しているだけ。
F:じゃあ、何をしたら悪いことになるの?
C:誘拐。
C:強盗。
C:殺人。
C:殺し合い。
C:痴漢。変態。覗き。
F:それらが悪でよろしい? その悪からだれかを守ろうとするのが正義?
C:うーん。ちょっと違う。
C:人を守るために、他の人に暴力をふるうのはよくない。
C:暴力をやっちゃったら、正義じゃなくない?
C:そしたら守れないじゃん。
C:暴力をふるっちゃったら、どっちもどっち。
F:暴力をふるっちゃうにも理由がある?
C:くちで言えばいいんだと思う。
C:暴力にも、レベルがあって。殺してはいけない。
C:暴力にも、悪と正義の暴力がある。だから中途半端。
C:正義だからってなんでもやっていいわけではない。
F:じゃあ、正義ってなに?
C:正義でも、暴力をふるったら、正義じゃなくなる。
C:正義の味方なんとかマン!は、いなくなるってこと?
C:そう、だから、正義は存在しない。
これは小学1年~5年生までの9人が話し合った記録です。
ー対話を深める問いかけの言葉
・正義についてそれぞれの意見が出ていたね。どんな意見が出てた?
・その意見の中で自分の考えに近いものはある? 理由は?
・正義ってどんなイメージ?
・何から、誰を守るの?
・ジャイアンやバイキンマンは悪?
・やったら悪なことはある?
・正義の人が相手を殴ったら悪?
・正義といってもなんでもやってよいわけではない?
・刺されそうになって、自分を守ろうとして人をたたいたらそれは悪?
・動物はさ、他の動物を襲って食べるじゃない? それは悪?
・暴力をふるっちゃうにも理由がある?
・じゃあ、正義ってなに?
ー 対話をおえて(ふりかえり)
今回のテーマは「正義とは?」、かなり形而上学的なテーマでしたが、子どもたちとの対話は興味深いものでした
はじめに「正義ってどんなイメージ?」と聞くことからはじめましたが、子どもたちそれぞれに、アニメやゲーム、漫画などの世界に触れる中で、おぼろげと正義ないし悪のイメージが具体的に出てきました
私たちの試みで興味深かった発言は、「中途半端」という言葉です
一見、多くの人を助けていたり、脅威や悪から守っている人がいたとしても、その方法如何によっては正義も悪になること、もしくはその人自身が脅威に遭ったり、恐ろしいものと出くわしたときに悪になること、を彼ら・彼女らは中途半端という言葉で表現していました。条件や状況によっては人は正義にも悪にもなる、と理解しているようです
では暴力に頼らないとき、どうしたらよいのか、と聞くと、そこで登場したのは話し合うという行為でした
暴力は悪いことであり、話し合いは正義である
となると、話し合いが通じない相手や、話し合いが成立しないような危機的な状況ではどうすればよいのか、話は膨らんでいきます
このような話し合いの帰結に、「正義でも暴力や状況によっては悪に変りうるため、正義は存在しない」というものでした
一番はじめに「正義のイメージ」を問いかけたとき、「いい人」と答えたその子が、このような意見を最終的に出した、というのがとても印象的でした
話し合いを積み重ね、多くの子どもたちの意見を聞く中で、自分の意見が変化していったのですね
正義という抽象的な概念をめぐる話し合いでしたが、彼・彼女らが見ている世界と関連ずけながら意見を聞き出していくことが大切だと思います
記録・ファシリテーター
◆川上和宏◆
1984年、群馬県生まれ / 大人の秘密基地arcoiris 共同店主
杉並区社会教育センターにて社会教育・生涯学習の企画運営に携わったあと、
2013年にアルコイリスを起業・運営
千葉大学大学院教育学研究科卒、東京学芸大学博士課程満期取得退学
大人向けの哲学対話の場、哲学カフェ@アルコイリス・主宰
その他、この世界について他者と対等に語り合うための場づくりをお店にて実践中