Movie for Philosophy
【導入動画のあらすじ】
ある日のカフェ
つーぼー(小学5年生)は、仕事を変えようかと悩む一人の女性と出会います
お給料、子育てに必要なお金、自分の時間、子どもと過ごす時間…そんな葛藤について相談をもちかけられます
仕事をするって、自分がやりたいとか楽しいからやるわけではどうもないらしい
もっといろんな事情がつまっていることに気づかされます
私たちって、仕事をなんのためにしているのでしょう?
ー哲学対話の記録
F=ファシリテーター(指導者)
C=子どもたち のそれぞれの発言を指します。
F:はい。動画をまず見てもらいました。出てきたのは小春さん。どんな人だったかな?
小春さんについてわかったこと、出し合ってみましょう。
C:33歳。仕事はプログラマー。
F:プログラマーってどんなお仕事か知ってる?
C:コンピューターをいじる。なにかをつくったり記録したり、命令したり、そんな仕事。
C:あと、子どもがいる。
F:何歳?
C:5歳で保育園に通ってる。
F:小春さんは何に悩んでいたの?
C:仕事がすごく大変。だけど今の仕事をやめるとお給料が下がる。
C:そうするとぜいたくできなくなるし、つまらない。海外旅行ができなくなる。
C:子どもを育てるのにお金がかかる。
F:そうですね。小春さんは仕事を変えようかどうしようか悩んでて、小学生であるつーぼーに相談というか悩みを打ち明けましたね。
逆にみんなから小春さんに聞きたいことってある?
C:ぜいたくするのと子どもとどっちが大事なの?
C:子どもを育てているんだから、ぜいたくはあきらめたら?
C:海外旅行なんて何が楽しいの? なんでしたいの?
C:なんのために仕事をしているの? 子どものため? 海外旅行のため?
C:というか、だんなさんは何をやっているの? だんなさんにも働いてもらえばいい。
F:私は小春さんは友達でよく知っているのだけれど。
だんなさんは働いています。で、海外旅行したり、贅沢したりするのが楽しいの。生きがいっていうか。でも、子どももとっても大事。だけれどぜいたくできなくなるのはいや。今できるぜいたくをしたいって思っている。そんな人です。
C:そしたら、今やってる仕事を頑張って、ちょっとずつ貯金して、たくさんお金がたまったら仕事を変えればいい。
C:ローンを組んで、今のうちにたくさんぜいたくをして、子どもが大きくなったら返すとか。
F:ローンを組むってわかる人はいる?
C:銀行からお金借りて、あとでちょっとずつ返すこと。
C:計画的?に、お金をつかえばいいんだよ。ちょっとぜいたく減らして、ちょっと仕事を減らして。
C:小春さんはお金のことばっかり考えて仕事してるから、つまんなくなっちゃって仕事に力がでないんだと思う。
C:今の仕事を週3日くらいに減らして、かわりにだんなさんに働いてもらえばいい。
C:だんなさんのほうが強いから、それが難しいんじゃない?
F:だんなさんが強いって何がつよいの?
C:心。あと身体。力も。
F:みんなのうちはお父さんが強いの?
C:うちはママが権力をもっている。
C:お母さんのほうが強い。
C:お父さんは怒ってもやさしいけれど、おかあさんは怖い。
C:小春さんはプログラミングの仕事をしてるでしょ? だんなさんは何をしているの?
F:小春さんのだんなさんは工場で働いています。
C:え?工場で働いてもお金にならないじゃん! だんなさんがプログラミングの仕事をして、逆にしたらよいじゃない?
F:工場で働くとお金にならないって本当?
C:だって、みんなで作業してモノをつくるわけでしょ。一人のお金は低くなるじゃん。
F:プログラミングだって、みんなで協力して作業をするよ。
C:だんなさんが工場をやめて、子育てをしたらいいんじゃない? そうしたら小春さんの疲れもとれるし、家事の時間が減るから、子どもと過ごす時間もできる。二人でうまく分担すればよいんじゃない?
F:プログラミングの仕事と、工場の仕事。それぞれにえらい人とそうじゃない人っていろいろあると思うけれど、プログラミングのほうがお給料がよさそうって思う人はいる?
<プログラミングの仕事のほうに9割の子どもが手を挙げる>
C:プログラミングのほうが稼げそうじゃん。
C:つくっているものによると思う。だんなさんは何をつくってるの?
F:だんなさんは、パソコンの脳みそにあたる小型のコンピューターをつくっています。
C:そしたら、どっちも同じくらいのお給料じゃない? うまく二人でお金と、仕事の時間と、子どもと過ごす時間を分担すればいいと思う。
F:今日のテーマは「仕事って何のためにするの?」でしたね。みなさんは将来、働きたいって思っていますか?
<働きたいに7割、働きたくないに3割の子どもが手を挙げる>
F:働きたくないに手を挙げた人に聞きます。どうして働きたくない?
C:えー、だって好きなことをする時間が減るから。
C:めんどくさーい。
C:ママを見ていると働きたくなくなる。忙しそうで大変そう。
F:働きたいに挙げた人は、その理由はどう?
C:お金がほしいから。
F:そうなると、お金があったら働かなくてもよいって人はいる?
<半数の子どもが手をあげる>
F:お金がたくさんあっても、働きたいって思うのはどうして?
C:もっともっーとお金がほしいから。
C:老後?のための貯金。
C:お金がたくさんあっても、仕事をして、頭がよくなって、そしたらもっとお金のいい仕事につけるから。
C:仕事をすれば、自分の好きなことを表現できるし、同じ仕事場の人と仲良くなったり友達もできる。
仕事をしなかったら、ただ家とスーパーに行くくらいで、友達もできない。だから仕事をしたほうがいいよ。
F:お金をかせぐ以外にも、仕事をしてえられるものがあるってことだね。
さっき、お金のためだけに仕事をすると力がでないって人が何人かいたけれど、それはどうして?
C:仕事の中身じゃなくて、仕事以外のこととか、お金のことばっかり考えているから仕事に集中できず、やる気がでないんじゃない?
F:となると、話を少しまとめます。みんなの意見では、仕事を何のためにするかっていうと、
①お金のため、
②職場で友達ができるから、
③自分の好きなことを表現できるから、
④技術や知識を高めてもっといい仕事につけるから、
とこんな感じでしょうか。好きなことを表現できるって意見があったけれど、みんなは将来やってみたい仕事ってあるの?
C:あるよ。映画監督。
C:弁護士と科学者と総理大臣。
C:動物園の飼育員さん。
C:看護師さん。
C:ペットショップを経営する。
C:猫カフェ。
C:小春さんと同じプログラマー。
F:では質問。みなさんがそれぞれやってみたい仕事につきました。けれど全然お金が稼げません。
自分で暮らしていくにはちょっと不安だなって思うくらいのお給料です。例えばスマホが持てないくらい。
そんなだったらどうする?
C:自分のやりたいと思ってる他の仕事を探す。小さいころやりたいって思っていた仕事を思い出して、別の仕事を考えてみる。
C:やりたい仕事をやめて、別の仕事をやる。
C:自分のやりたい仕事なんだから、なんとか夢をかなえる。好きな仕事をやってるんだから、がんばれるはずだし、いつかお給料も上がるかもしれないじゃん。
C:もっと派手に仕事をやる。そしたら、もっとお客さんがたくさん来る。
C:好きな仕事ができているってことを、ぜいたくなことだって思えばいいじゃん。
F:ははぁ。なるほどね。
C:好きな仕事はやりたいことなんだから、仕事だって思わなければいい。
F:この意見、みんなわかる?
C:わかる! 遊びっていうか、楽しみっていうか。
F:となると、仕事ってなんのためにするの??
C:仕事っていうのは、お金を稼ぐためだし、友達をつくるためだし、自分のやりたいことをかなえること。
F:はい。時間がきたので今日の対話は終わりにします。ありがとうございました。
※これは、小学1年生〜小学6年生まで15名の子どもたちが参加し、1つの輪になって哲学対話をした記録です。
ー対話を深める問いかけの言葉
・動画に出てきた小春さん。どんな人だったかな?
・小春さんはいったい何に悩んでいたのでしょうか?
・小春さんに聞いてみたいことはある?
・プログラミングってどんな仕事か知ってる?
・みなさんは将来、働きたいって思っていますか?
・それはどんな仕事かな?
・やってみたい仕事をやってみたけれど、ぜいたくもできないし、
スマホが持てないくらい生活がギリギリだったら、その仕事 は続ける?
・もし使い切れないほどのお金を持っていたとしても、仕事をしますか? する/しない のはなぜ?
・お金以外にも仕事をして得られるものはある?
・子育てと仕事の両方をしていて、子どもと過ごす時間がないくらい仕事が忙しくなってしまったら、どうしますか?
・どんな仕事がお給料が高そうだと思う?
・いったい、仕事ってなんのためにするの?
ー 対話をおえて(ふりかえり)
この動画は、実際に、仕事・子育ての両立や、生活に必要なお金・自分のためのお金に悩む具体的な人の述懐をもとに作成しています。同じような葛藤の渦中にいる大人の方も多いことかと思います。そうした具体的な悩みを子どもたちに率直に伝えながら、あらためて「仕事ってなんのためにするのか?」を問う教材となっています。
対話のはじまりは、まずこの動画をみて理解できたことやわかったことを伝えあうことからはじめるとよいかもしれません。
その上で、悩んでいる小春さんが直面している課題を整理しながら、子どもたち自身がお金・ぜいたく・子どもと過ごす時間・自分のための時間やお金…に優先順位をつけてもらうような投げかけもいいですね。
また、子育てをしているということは小春さんにだんなさん(パートナー)がいることを子どもたちは予想します。実際の対話の記録にも描かれていますが、指導者の方自身が、小春さんにはパートナーがいるのかいないのか、いる場合はどのような仕事をしているのか、もしくは家事はどれくらいやっているのか、などの設定をしておくと子どもたちからの質問にスムーズに答えられると思います。仕事の話のみならず、子育てと仕事の両立、保護者間での家事分担の問題にまで対話をもっていくこともできるでしょう。
当然ですが、まだ仕事をしたことのない子どもたち。でも見聞きする世界の中でおぼろげながら仕事へのイメージをもっています。子どもたちが将来どのような仕事をしたいのか、もしくはそのイメージを聞き出してみるのもおもしろいと思います。子どもたちがどのような情報やメッセージに触れて日々を生きているのかを垣間見れるはずです。
記録・ファシリテーター
◆川上和宏◆
1984年、群馬県生まれ / 大人の秘密基地arcoiris 共同店主
杉並区社会教育センターにて社会教育・生涯学習の企画運営に携わったあと、
2013年にアルコイリスを起業・運営
千葉大学大学院教育学研究科卒、東京学芸大学博士課程満期取得退学
大人向けの哲学対話の場、哲学カフェ@アルコイリス・主宰
その他、この世界について他者と対等に語り合うための場づくりをお店にて実践中