Movie for Philosophy
【導入動画のあらすじ】
「さっさと大人になりなさい」とお母さんから言われたつーぼー(小学5年生)
「ん?でも、子どもっていつ大人になるんだ?」と疑問をもちます。
すでに大人になっているだろう人たちに聞いてまわると…
またもそれぞれに、それぞれの回答が
法律では18歳になりましたが、大人になるには年齢だけとはいいきれなさそう。
みなさんはどう考えますか?
ー哲学対話の記録
F=ファシリテーター(指導者)
C=子どもたち のそれぞれの発言を指します。
F:はい。みなさんにはまず、動画を見てもらいましたね。つーぼーという小学生が、お母さんから早く大人になりなさいって言われた。つーぼーは「人っていつから大人になるのだろう?」ってふっと疑問に思いました。そして、いろんな大人たちから意見を聞いてみたわけでした。
どんな意見が出てました??
①働いて、一人で暮らせるようになったとき。
②子どもを育てたり、いろんな手続きとかぜーんぶ自分でできるようになったとき。
③大人になっても年上からは子ども扱いされる。だから、いつ大人になるのかわからない。自分が大人か子どもかは、相手によって変わる。
④20歳になったら大人だと法律で決まっている。
⑤親がいなくなったとき、はじめて大人になる。親から見れば、子どもはいつまでたっても子ども。
F:はい。ありがとう。ではみなさんに質問です。この意見の中で、自分の意見に一番近いものはどれでしょうか?? ちょっと考えてみようか。
F:働いて一人で暮らしたら大人って思うひとは?? どうしてそう思ったの?
C:働いたらお金がもらえて、食べ物や服とか買ったりできて、自分で自立して生きていけるから。
F:自立ってどんなことかわかる?
C:人に頼らずに自分で生きていけること、かな。
F:じゃあ子育てをしたり、家族や自分のこと、ぜーんぶできるようになったら大人って思う人は?
C:子どもができて、家族のことも全部自分でやってるから大人だなって思う。
F:今、どんなことを家の人からやってもらってるの?
C:洋服洗ってもらったり、ごはんつくってもらったり、宿題見てもらったり。今は、自分で一人ではできないことがたくさんあって、大人にやってもらってるから、自分はまだ子ども。
F:自分が大人か子どもかは、相手によって変わると思う人は?
C:動画に出てきたけど、社長とか、年上の人や先輩とかいて。社長ってえらいでしょ。年下だと、仕事でできないこともまだまだあるから、できる人から見たら、まだ子ども。
C:いろんな経験がある人からすれば、親からは自立して暮していても、子どもっていえるかもしれない。
C:子どもは大人にやさしくもらえるけど、大人は社長や先輩に怒られたりするから、大人でもまだ子ども。
F:じゃあ、社長がいなくなって、自分が社長になったら大人といえる?
C:うーん。前の社長に怒られながら、仕事を学んで、立派になったから、大人になったといえるかもしれない。
F:じゃあ社長になったけれど、もし、家では洗濯とかご飯つくるとか子育てを全部奥さん(パートナー)にまかせていたら、それでもその人は大人っていえる?
C:うーん、それは大人とはいえないかもしれない。
F:法律で決まっているから、20歳になったら大人だと思った人は?
C:お酒とか飲めるようになるから、大人。
C:そうとは言い切れないけれど、たぶん法律でそうだって決まってるのには理由がありそうだから。
C:20歳くらいが自分のことを自分でできるようになる年齢なんじゃない?
F:でも今、法律で18歳が大人って決まろうとしているよ。たとえば法律がもっと変わって10歳で大人ってなったら、それでも大人っていえる??
C:えーーーっ。勝手に決められちゃうの?
C:年齢だけじゃなくて、全体的に見て、何歳になったとしても、しっかりしてきたなって思えたら大人…なんだと思う。
F:じゃあ最後の、自分の親がいなくなったら大人だと思った人は?
C:お母さんになったとしても、おばあちゃんやおじいちゃんがいるから、彼らにとってはずーっと子ども。怒られることもあるし。
F:動画でも71歳のアキナさん、お母さんから怒られてたね。となると、おばあちゃんになっても親がいるうちはまだまだ子どもなの?
C:親がいなくなっても、ときどき親のことを思い出したりして、大人も泣いたり、甘えたりするでしょ。それって周りからみたら大人でないかも。
F:泣いたり甘えたりっていうのは大人じゃないってことかな。となると、みんなはこんな人が大人ってイメージがあるの?? ちょっと考えてみようか。
C:子どもでも、大人だね、とか言われることがあって。学校の授業で「心が大人」、「意見が大人っぽい」とか言われた。外は大人じゃないけど、中は大人ってことがある。その逆で、外は大人だけど、中が子どもって人もいる。
C:大人はご飯をいっぱい食べたり、好き嫌いをしない。あと、いろんな仕事ができる。
C:ぜーんぶ自分のこと、自分でやっていたら大人。
F:私たちはどう?大人に見える??
C:今みたいに子どもにいろんなことを教えてるから。あと見た目が大人。
F:じゃあ、ぼくの身長がとっても低かったら?
C:背の小さい人もいるし、そういう障がいのある大人もいる。
F:今、障がいのある人って言ったけれど。動画に出てきたアキナ(71歳)がもっと年をとって足が不自由になったとする。ぜーんぶ自分で自分のことできなくなるかもしれないし、働くこともできないかもしれない。それでも大人っていえる?
C:そしたら車いすにのればいい。
C:71歳の人は、たくさん生きてて、いろんなたくさんの経験や分かることがある。歩けるとか関係なくて、だから大人。
C:高齢者の大学みたいなものがこないだテレビでやっていて、高齢の人は新しいことを覚えるのに時間がかかるかもしれないけれど頑張ってる人がいる。そういう人はもともと大人だけれど、勉強してもっと大人になる。
F:逆に飛び級って知ってる? 子どもでも大学にいったり、卒業して仕事をはじめる人もいる。そんなふうに、子どもだけれど大学行ってたり、仕事をしている人は大人?
C:うーん、そういう人は大人といえばそうだけど、やっぱ子どもかな。仕事以外のことは親にやってもらってるかもしれないし。
F:自分のことは大人だって思う?
C:まだ子ども。知らないこともあるし、好き嫌いもあるから。
F:私たちも知らないこといっぱいあるよ。
C:子どもでもう仕事してる人は、努力して会社をたちあげている。その努力が、大人に近づいている。というか、子どもでも会社ってできるの?
F:子どもでもできるよ。子どもが立ち上げた会社も実際にあるよ。
F:じゃあ、法律で20歳で決まっていると手を挙げた人に聞きます。法律で20歳ということは20歳の誕生日が来た瞬間にいきなり大人になるってことでよい?
C:子どもは、だんだんだんだん大人に向かっていくの。20歳は大人になるきっかけで。そのあとでもいろんなことを学んでちょっとずつ大人になっていくんじゃない? で、20歳で完全な大人になる。
F:じゃあ、動画に出てきたカワカミさんが言ってたけれど、20歳をすぎても大学生で、親からお金をもらって暮してていました。仕事はしていません。お酒は飲んでいた。でも洗濯はしていたし、料理はつくっていたし、自分で朝、起きていた。一人で暮らしていたからね。これは大人といえるの??
C:大人でも、大学とかにいることはあるから、大人は大人、だと思う。
C:まだまだ大学で勉強中だから、大人にはなれていない。大人でも子どもでもない。その間の、子どもは卒業したけれど、子どもと大人の、その間の人。
F:大学生を大人じゃないって思う人はいる?
C:ご飯とか自分のことを自分でやっていたとしても、仕事もしていないし、お金もかせいでいないし、だから子ども。
F:となると、お金を稼ぐことが大人になる理由として、大きなことかもしれない?? 逆にお金は稼いでないけれど、宝くじとかでいっぱいお金をもっている人がいたとしたら?
C:それは大人ではないと思う。
C:お金の量とかじゃなくて、働いてお金を稼いで、自分で暮らしている人が大人。
F:大学生みたいに、仕事してないけれど、自分のことは自分でやっている人。大人じゃないけれど、子どもでもないっていうこれはなんなの?
C:子どもと大人が混ざったような感じ。もうちょっと勉強とかしたら大人。
C:大人と子どものどっちも。おとども(おとな・こども)みたいな。
F:じゃあその「おとども」が大人になるためにはどうしたらよいの?
C:それが、年齢でいったら「20歳」だってことじゃない?
C:でも洗濯や料理ができなかったら大人じゃないし、20歳で時計みたいにチーンっていきなり大人になるのっておかしいと思う。いつ大人になるかは、自分で決めるものかもしれない。
C:20歳になって一応、大人になるんだけれど、仕事をしたり、勉強したりして、ちょっとずつちょっとずつ、完璧な大人に近づいていく。階段みたいな感じ。
F:となるとさ、世の中には「大人」だって言える人はいるの?
C:うーん。大人は全部なんでもできるわけでもない。年上の人でもできないことや、年下の人でもできることがあるし、その逆もある。
なんでもできる完璧な大人はいないけど、「ちょっと大人」がたくさんいる。
F:みんなの意見を聞いていると、ちょっとずつ、階段をあがっていくように「大人になる」ってことなんだけれど。その境界線っていうの? ここを超えたら「大人」っていう「ここ」はなんなのさ??
C:だれにも頼らないで、自分ひとりで何でもできるようになったら。仕事とか、料理とか、暮らしとか。それがしっかりできていたら。年上の人や親から怒られたりしていても、大人っていえるかもしれない。
C:うーん。年齢とか仕事とかではなくて、自分のことを自制できたら大人。
F:自制ってどういうこと?
C:いらいらしたり、すぐに癇癪を起こして「わーっ」てならずに、自分の気持ちをコントロールして、相手と接することができる人、それが大人。
F:はい。ありがとうございました。時間がきたのでこれで対話を終わりにします。
※これは、小学1年生〜6年生まで全部で15名の子どもたちが参加し、1つの輪になって哲学対話を行った記録です。
ー対話を深める問いかけの言葉
・「子どもっていつ大人になるの?」心にふっと抱いた疑問を5人の大人たちに聞いてみましたね。
それぞれどんな意見が出てきましたか?
・出てきた意見の中で自分の意見に一番近いものを考えて手をあげましょう。
・どうしてその意見が近いなって思ったの?
・20歳で大人になるという意見をもっている人に聞きます。
20歳の誕生日が来た瞬間に大人になる、ということでよいのかな?
・どうして20歳って決まっているのだろう? 予想がつく人はいる?
・親がいなくなったときにはじめて大人になるという意見をもった人に聞きます。
71歳のおばあちゃんでも、親が生きていたらまだ大人ではないの?
・仕事をしてお金を稼いで自分で暮らせたら大人という意見をもった人に聞きます。
歳をとったり、事故にあったりして身体が不自由になって仕事や生活を一人でできなくなったら、
その人は大人じゃなくなるの?
・大人ってどんなことができる人?イメージはある?
・年齢は子どもでも、仕事をしてお金を稼いでいる人は大人と言えるの?
・背が大きくてヒゲが生えていたりして、外見は大人でも、子どもみたいな人っている? それはどんな人?
・みんなは早く大人になりたいって思う? それとも子どものままでいたいって思う? その理由は?
・大人になったら絶対にやらなきゃいけないことってあるのかな?
・その逆で大人になったらできなくなることってある?
ー 対話をおえて(ふりかえり)
この動画は、シナリオを書く前にまずは大人たちで「大人っていつからなるのか」を対話し、その中で出てきた具体的な意見・考えをもとに制作しています。
働くこと、お金を稼ぐこと、身の回りのことを自分でできること、は大人の定義として思いつきやすいものですが、上司や先輩、親などの人間関係で捉えたときに、「果たして自分は大人といえるのか?」という大人自身の悩みもありありと表現しています。
この動画を見せたあと、どの意見が自分の意見に近いものを挙手してもらいましたが、子どもたちは見事に意見が割れました。同じような結果になるかはわかりませんが、意見が割れるのは対話や考えを深める上でのチャンス!です。
「大人とはいつからか」は大人でもその答えにグラデーションがあるように、子どもたちも明快な答えを出しにくいものなのかもしれません。
なぜなら、「大人かどうか」は、仕事・稼ぎ・子育ての有無や、年齢・外見という客観的な事柄だけでは判断できず、比べる相手との関係性や内面の精神性、年老いたり障がいを負ったりして、誰かの手助けが必要な人など、対話が広がっていけばいくほど、一面的な定義が困難であることに気づかされます。
1つずつ、指導者の方が判例や反対例を示し、一方的な見解に陥らないような「言葉がけ」があると、一筋縄ではいかない現実にぶつかって思考の渦の中に子どもたちを巻き込むことができるのではないかと思います。
対話を終えたあとの子どもたちからは「大人ってどんな人を指すのかますますわからなくなった」というこちらとしてはこの上なく嬉しい感想が溢れました。
記録・ファシリテーター
◆川上和宏◆
1984年、群馬県生まれ / 大人の秘密基地arcoiris 共同店主
杉並区社会教育センターにて社会教育・生涯学習の企画運営に携わったあと、
2013年にアルコイリスを起業・運営
千葉大学大学院教育学研究科卒、東京学芸大学博士課程満期取得退学
大人向けの哲学対話の場、哲学カフェ@アルコイリス・主宰
その他、この世界について他者と対等に語り合うための場づくりをお店にて実践中