Movie for Philosophy
【導入動画のあらすじ】
うーんと悩むつーぼー(小学5年生)
なじみの大人が何に悩んでいるかたずねると、つーぼーは「なんのために生きるか」を知りたいという
絶句する大人たち
なんとかして、それぞれの考えを語るが……
またしても多様な意見・考えに出会います
超難問なこの問い
みなさんは、どう考えますか?
ー哲学対話の記録
F=ファシリテーター(指導者)
C=子どもたち それぞれの発言を指します。
F:動画をみてもらいましたね。それぞれどんな考えがでていた?
C:生きてて幸せって感じるため。
C:命のバトンをつなぐため。
C:ひまつぶし。
C:この世界についてもっと知るため。
C:生きる目的はない。
C:自分の考えを誰かに伝えるため。
F:うん、そうだったね。この意見の中で自分の考えに近いものはある? 手をあげてもらえるかな?
<それぞれに手が上がり、意見が割れる>
F:命のバトンをつなぐが一番多くあがったかな。理由を言える?
C:命のバトンをつながらなかったら、動物も人間もいなくなっちゃうから。
C:絶滅ってこと?
F:なんで絶滅しちゃう?
C:新しい命が生まれなくなるから。
C:人が一人もいなくなったらやっぱり困ると思う。
F:この世界を知りたいって人はいる?理由は?
C:なんか、いろんなことを知ったほうがいいかなって思うから。なんとなく。
F:自分の考えや経験を伝えるため、っていうのに手をあげたのは? 理由は?
C:自分の経験や考えっていうのは、たとえばお父さんがいなくなったとしたら、その人がどんなふうに考えてるのか聞けなくなっちゃって、そうなると、自分の心を変えることができなくなっちゃうから。
C:私はちょっと考え方がちがって。身体の中の仕組みとか、大腸とかぐるぐるまきになっていて、その絵をガリレオが公開しなかったらしいんだけれど…、それを伝えていたら、世の中や社会が変わっていたかもしれない。自分の考えを世の中に伝えることって大事。
F:自分の知ってることをいろんな人に伝えたほうがよい方向に変わるかもしれないってことかな? 動画ではこういう意見が出てたけど、私はこのために生きてるって意見がある?
C:ぼくはね、動物を育てるために生きてる。
F:それはなんのために動物を育てているの?
C:かわいがるため。なでたりとか。
C:私は、友達と仲良くなるためかな。
C:自分ができないことを、他の人に助けてもらうために生きてる。
C:なんとなくなんだけれど、お互いに助け合って、だから助け合うために生きてる。
F:ちょっと質問を変えるけれど、生まれてきて、生きててよかったって思うときはある?
生まれてきてよかった!って人は?
<9割がた、手をあげる>
F:それはどんなとき?
C:生きてなかったら勉強とか、今日この場で話し合うこともできないから。
C:お母さんとかお父さんに会えたり、友達と遊んだり、たくさんのこと教えてもらったりできる。
C:誕生日とかクリスマスとか、プレゼントもらうとき。
C:うーん、でも、たまにほしくないものをもらったりする。だから生きててよかったって思わない。
C:別にそのために生きてるわけじゃないから。ほかにもうれしいことあるし。
F:なるほどね。じゃあ逆に、生きててこれは嫌!ってことはある?
C:学校。
C:なんかつらい病気とか。
C:インフルエンザの注射。
C:怒られているとき。
C:働く。
C:薬を飲むのが嫌だ。
C:入院。骨折して外で遊べなかった。
C:嫌なことが起きたり、嫌なことをされたとき。
F:病気になったら生きてるのがつらい?
C:退屈で、ひま。
C:痛くて苦しいとか。
C:学校ずっと休まなきゃだから、テストがめっちゃたまる。
F:さっき学校が嫌ってあったけれど夏休みになったら生きてて幸せってなる?
C:どうせ学校はじまるし。
C:宿題めっちゃ出る。
C:サイコー!ってわけじゃないけれど。
F:生きてないとできないことがある?
C:勉強。鉛筆もてないし。
C:遊べない。
C:猫、なでなでできない。死んじゃったらすりぬけちゃう。
C:お父さん、お母さんに会えない。好きな人と話せない。
C:自分の夢がかなわない。
C:大人になったらできることができなくなる。
F:逆に死んだらできるようになることがある?
C:死んだことないからわかんない。
C:壁をすりぬけるとかできるかも。
C:飛べるかもしれない。道具をつけずに。
F:となると、生きてたらできることをするために生きてるってことかな?
友達や親と会ってお話したり、勉強したり。
ん? そうなると植物ってどうなの? そういうのできないけれど生きてるっていえるの?
C:植物も生きてる。
C:大きくなったり、種をつくったりする。
C:聴診器を木にあてるとドキドキしてる。
F:じゃあ植物はなんのために生きてるのかな?
C:誰かに育てられるために生きてる。
C:さっき出たけれど、種を飛ばして、次の植物を育てるために生きてる。命のバトンをつなぐ。
F:でも人に育てられた植物って食べられちゃうよ? 食べられちゃう動物もいるね。
C:あー残酷な話だ。
F:お肉だったら何が好き?
C:唐揚げ。
F:唐揚げになる鶏さんはなんのために生きてる?
C:卵を産むため。
C:全部は殺さないと思うから、生きさせるために残されるのと、私たちに食べられるためと2つ。
C:他の仲間が人間にたくさん食べられちゃったから、人間に復讐するため。
F:なるほど。復讐ね。となると鶏にも自分がこうしたいっていう意志がある?
C:コケコッコーってなくから意志はある。
F:こうしたいって意志があるってことは、なんのために生きるか目的もある?
C:だから卵を産むため。
C:意志はあるけれど、目的はつくれないかもしれない。
C:朝一番にコケコッコーって鳴くためとかあるかもしれない。
C:人間に思い知らせてやるって思ってるかも。
C:生きる目的は自分じゃなくて、まったく別の誰かに決めつけられているかもしれない。
F:それは誰?
C:神様、とか。
F:生きる目的って自分以外の誰かが決めているかもしれない?
C:学校はいかなきゃならないって決められてる。
C:でも、どこの学校に行くかは選べるじゃん。
C:それは、地域によるよ。
F:みんなは人間になろう!って思って生まれてきたの?
C:覚えてない。
C:ぼくは人間になりたくなかった。
F:あらほんと。じゃあもし生まれ変わったとして、もう一度人間やりたいなって人は?
C:猫になりたい。
C:動物。犬。
C:人間は嫌だ。
F:猫とか犬って意見が多かったけど、どうして?
C:人間になでられてみたい。
C:人に飼われて、散歩して、のんびり暮らす。
F:猫とか犬はのんびり暮らせるの?
C:外じゃなければ。
C:野生だと大変。餌とるのとか。
C:猫とか犬だと長生きできないよ。
C:空とんでみたいから鳥。
C:トビウオがいいな。空も海もいける。
F:もし犬や猫になったら、なんのために生きるの?
C:飼われるために生きる。
C:かわいがられたり、なでられたり。
F:学校とか友達にあったりとかできないけれどいいの?
C:だって、うちの犬とか猫、だれも学校いってないもん。
C:動物は大変。だって食べなきゃいけないし、食べられたりもする。
F:なるほど。じゃあ野生動物はなんのために生きる?
C:ライオンは一生肉を食べ続けるために生きる。
C:食べないと生きれない。生きるために生きてる。
C:それだと、食べることに精一杯だから、食べるしかできない。
食べるためだけだとほかになにもできない。遊べないしゲームもできない。
友達とゆっくりするヒマがない。
C:あと、子育てをするため。
F:植物も鶏も子どもを育てるためって意見があったけれど、もし子どもを育てなくても生きる意味はある?
C:それはある。
C:実際に子育てをできない人もいるし。
C:友達とかと会うためかな。
C:人とあってうれしいことがあるし。
F:となると、なんのために生きるの?
C:成長して、自分で決められるじゃん、大人は。生きる目的は変えられる。
C:食べるために生きるは目的の1つで。ほかにも目的はいくつかあって、食べるはその1つ。
遊んだり、夢をかなえたり、大人になることも目的の1つ。
C:生きるために生き、死ぬために死ぬ。
C:だから、好き放題生きるのがいい。
F:はい。時間がきたので今日の話し合いはおしまいです。ありがとうございました。
※これは小学1年生~5年生までの子どもたち14名が、1つの輪になって話し合った記録です。
ー対話を深める問いかけの言葉
・つーぼーが大人たちに「なんのために生きるの?」って聞いてたね。どんな意見が出てた?
・その意見の中で自分の考えに近いものはある? 理由は?
・生きててよかった!とか生きてて幸せってときはある? それはどんなとき?
・逆に生きてて嫌だなって思うときは?
・植物や動物にも生きる目的はある? それともない? 理由は?
・植物や動物にもこうしたいって意志はあるのかな?
・ある目的のために生きてる場合、その目的がなくなってしまったらどうする?
・もし子どもが産めなくても生きてる意味はある?
ー 対話をおえて(ふりかえり)
この動画は大人でも簡単には答えが出せない「なんのために生きるの?」という問いについて、5つの答えをひねり出したものです。
私たちも確信があって出したものではなく、あくまで対話の立脚点としての意見です。
子どもたちに助けを求めるつもりで、率直に思っていること、考えていることを出し合うところからはじめるとよいかもしれません。
私たちの実践では、動物好きな子どもたちが多かったこともあり、動物や植物との比較を行うこととなりました。ペットと野生動物との生きることの大変さの違いや、動物に意志や生きる目的があるのかどうかが話にあがり、とくに野生動物は生きるために、食べるために生きている時間が長いので大変という理解にたどり着きました。
その上で人間の暮らしと比較すると、人間は決して食べる(生きる)ために生きるだけではなく、夢をかなえたり、友達とあってお話したり、大人になったり、とそれぞれ複数の目的のために生きている、という流れとなりました。
また、「世界や社会を知るため」とか「自分の考えを人に伝えるため」といった生きる意味についても、子どもたちからの意見があり、自分の知ったことや考えたことを回りに伝えることが、結果的に社会や世界を変えるかもしれない、という考えには唖然とさせられました。
みなで集まり、1つのことについてそれぞれの考えや経験を語り合う、という哲学対話そのものの意味を、子どもたちとともに考えるテーマなのかもしれません。
記録・ファシリテーター
◆川上和宏◆
1984年、群馬県生まれ / 大人の秘密基地arcoiris 共同店主
杉並区社会教育センターにて社会教育・生涯学習の企画運営に携わったあと、
2013年にアルコイリスを起業・運営
千葉大学大学院教育学研究科卒、東京学芸大学博士課程満期取得退学
大人向けの哲学対話の場、哲学カフェ@アルコイリス・主宰
その他、この世界について他者と対等に語り合うための場づくりをお店にて実践中