アルコイリスを拠点に「子ども哲学」活動を実践している団体「こてつ(子どものための哲学対話)」
2017年からはじまった活動は、今年で5年目の節目を迎えます
団体代表でもあり、子ども哲学のメインファシリテーター(話の引き出し役・調整役)も担う池田崇さんへインタビュー
にこやかに笑う、メガネがトレードマークの池田崇さん(左)
聞き手(右:川上/アルコイリス)の唐突な質問に、じっくり考えながら答えてくれました
ー子ども哲学、どうしてはじめたの??
川上:こてつ(子どもための哲学対話)が、えーと、2017年からですかね、発足&活動開始ということですが
そもそも、どうして池田さんはこの活動をはじめたの?
池田:きっかけや理由は1つではないですね。いくつか重なってますが…
まず1つは、アルコイリスで大人たちの哲学対話の場である哲学カフェ@アルコイリスに参加したこと
1つのテーマについて、じっくりと大人同士で話し合う、という経験はぼくにとってはとてもおもしろかった
で、これさ、子どもと一緒にやってみたらいいんじゃん?って
あの頃、哲学カフェに参加していた人たちで、興味のある人たちで、団体つくって動きはじめたんだよね
それがきっかけで、映画の「小さな哲学者たち」をみんなでここで見て
それはフランスの保育園で園児たちが、哲学対話をするところをずっと描いた映画ですが、
あ、こういう感じなんだなってイメージがすごく湧いたんだよね
川上:はいはい、思い出しました
そうそう、夜な夜なアルコイリスでプロジェクター投影してみんなで見たね
あの映画のおもしろいところは、「正義とは?」「リーダーとは?」「大人の役割とは?」「愛とは?」…
そんな、なんていうか、形而上学?的な問い、ザ・哲学な問いを、4,5歳の保育園児たちが一生懸命、言葉にして伝えあうところ
しかも、家でも保護者たちが「今日はどんな話しあいをしたの?」って子どもに聞きながら、さらに話し合ってる
あ、こんな場ができたら素敵だなーって思ったよね
ー 意識が高い系??
池田 それから、個人的な経験としてモチベーションの1つになったことがあって
当時、うちの長男が小学校の高学年だったのだけれど
"意識高い系"って言葉が流行ってて
なんか学校でね、ちょっと真面目な話をしたり、将来の仕事や、やりたいこととか友達に伝えたりすると、
「お前は意識、高い系だからな」って揶揄されたらしいんだよね
その話を聞いたときに、そんなことないよって
真面目に、真剣に話を聞く大人もいるだっているし!
真面目に考えを伝えられる、場はつくれるし!って
身をもって伝えたかったし、そんな大人たちに会わせたかったんだよね
そのあたりがきっかけ、です
川上 あー、なるほど! その息子さんの気持ち、すごいわかりますよ
ぼくは1984生まれですけど、ちょうど大学2年生くらい、2005年くらいかな
KYって言葉がすごい流行ってて、真面目な話、真剣な話をすると
「お前、空気読めよ」とか「お前、空気読めないヤツだな」とかって言われて圧殺される
今でもこの言葉は使われてますが、ひどい文化だなーって当時から今でも思う
ぼくも子ども哲学にファシリテータ―として関わらせてもらってますが、
このKY文化に抗ってやるって、もっと自由に話せる場をつくってやるって思って取り組んでる節がありますね
ー 緊張で"吐きそう" になる 子ども哲学のファシリテーション
川上 そんな形ではじまった子ども哲学ですが、1年目ってどうでした?
池田 今振り返ると、うーん、1年目ってほんと手探りで、まだつかめなかったところがあるかな
なんか、カッコつけてたよね、ぼく
川上 そうなの? カッコつけてたんだ(笑)
池田 本来、子どもたち一人ひとりが、どんなふうにこの世界や社会を見ているのかとか
どんな経験してるのか、もしくは周りの大人たちからどんな言葉をかけられて生きているのかとか
そうした一人ひとり違った固有の経験や考えが語られ、聞き届けられることが大事だと思ってはじめた活動だったんだけれど
1年目は、どんなファシリテーションや話の進行をしたら、うまくいくか、きれいにいくかとか
そんなことに気をとられてたね。だから、カッコつけてたな、って反省。まぁ、悩んでもいたよね
今振り返ると、ちょうどそのころ、いろんなところの子ども哲学に参加させてもらって、
練馬の「ねこてつ」さんとか、国分寺の「はなこ哲学カフェ」さん、子ども哲学の指導者養成もしてる「あーだこーだ」さんとか、いろんなファシリテーターの方たちと話す機会があって
で、"こうやったらうまくいく"とか、"型やモデルのようなものってないんだ"ってことに気がついたんだよね
真似しようと思ってもそもそも無理、だったら自分の素のスタイルでいけばいいんだって
ようやく、肩に入ってた力が抜けたというか…
川上 模索の時期があったんですね
そういえば…なんか毎回、子ども哲学がはじまる直前、緊張で"吐きそう"ってみんなで言ってたよね
あの、”吐きそう”って表現の正体ってなんだったんだろう??
池田 あー、言ってた言ってた! あれは、なんだろう? 話の"見通せなさ"じゃないかなぁ
仕事とかさ、会議でも、なんとなく会話の方向性とか聞き手の反応って想定ができるじゃない
でも、子ども哲学は、とてもいい意味で、子どもたち一人ひとりの反応や、紡ぎだされる言葉に完全に依存するから
なりゆきがまったく読めない
その見通せなさが、いつでも吐きそうなほどの緊張感を与えられていたよね
川上 あー確かに そのころ想定問答みたいの、毎回子どもが来る前にしてたよね
今日のテーマはこれだから、この言葉を投げかけたら、こう反応があるはずで、そしたらここに突っ込んでいけば…
なんてね、ファシリで話してたよね
ま、まったく無駄だったけどね(笑)
池田 まっっったく、無駄だったよね~(笑)
いつでも子どもたちの反応は、こっちの斜め左上にいくというか
投げかけた言葉や質問に対して、子どもたち、ポッカ―ンな反応が何度あったことか…
何度も何度も問い続けて、ようやく子どもたちが語りはじめてくれる
で、あ、今日のテーマの盛り上がりポイントというか
子どもたちの生活経験が浮かび上がるような、語りだせるポイントってここだったのかって、やりながら気づく
そんな繰り返しだったね
5月から今年も活動がはじまるわけですが、緊張しないことは一度だってないですよ、今でも
ー"子ども哲学" をわかりやすい言葉で説明すると…??
川上 こんな質問をしていいのかわかりませんが、"子ども哲学"をわかりやすい言葉で説明するとどんなふうになりますか?
池田 むずかしいねぇ。うーん、「かけがえのない他者と出会える場」ってことじゃないかな?
川上 その、"かけがえのなさ"ってどんな?
池田 えーと、少し話が広がってしまうけれど、多かれ少なかれ、仕事をするでも子育てをするでも、なんでも…
この社会って、それぞれが分業化された役割を果たすことで成り立っている側面ってあるんだと思う
だから、一人ひとりが与えられた役割を担いあい、ある種、効率的に、社会をまわしていくというか、まわっていくというか…
それが是か非かはちょっと脇に置くとして…
その役割の担い手になるように、子どものころから係とか委員とか、部長とか副部長とか…
なんらかの役割を担う練習をしていくわけですが
〇〇の役割を帯びた自分として、他者と関わる力を獲得することもとても重要なことだと思う一方で
大人になるとどんどん役割ばっかり増えていって、素の自分として人と会い、話す機会って減っていくよね
役割とかポジションとかって、個人よりもそっちが重視されるから
非情なことを言えば、務めさえ果たせれば、"掛け替え(かけかえ)"ができてしまうのだけれど
それらから離れて、自分自身がどんなふうにこの世界を見ているのか、
何を考えているのか、人の言葉や考えを聞いて何を思い、何を考えたのかー
思ったまんまを、考えたまんまを、体験した経験そのままを、
他者と伝え合うことは、その人が、"掛け替えのできない"一人の人間として、顕れ(あらわれ)ることになるんじゃないのかな
だって、その人固有の考えや経験が、その人の言葉を通して表現されるわけだから
他の誰かと、取って代わることができるはずがないもの
そんな、自分の"かけがえのなさ"を表現できること
目の前の相手の"かけがえのなさ"を体感できること
子どものころに、そんな経験をしていたら、
いつか大人になって振り返ったとき、楽しかったなとか、あんな場もあったなとか、
なにか、子どもたちの支えの1つになってくれたら…
と、そんなことを思ってこの活動をしています
だから、「かけがえのない他者との出会いの場」、という言葉がでてきました
川上 なるほど そういう意味では、この活動に来る子どもたちってすごいよね
どんななりゆきになるかも、どんな子どもたちが来ているのかもわからないまま、
役割とか正解とか、こういう応答しとけばよいとか、そんなのから離れて、
素の自分として、率直に考えを伝えてくれているんだものね
いいですね、「かけがえのない他者と出会う場」≒ "子ども哲学"
今日は貴重なお話を、ありがとうございました
池田 今年も5月15日(日)から、子ども哲学がはじまります
第1回目のテーマは、この時世を鑑み「戦争ってどうして起きるの?」です
初回にしては重すぎるテーマですが…
またいろんな子どもたちと、いろんなことを話しあえることがめっちゃ楽しみです!
ありがとうございました
文責:川上(アルコイリス)
話し手
◆池田崇さん◆
和光市在住、2児の親
2017年より、市内で子ども向けの事業を実施する団体こてつ(子どものための哲学対話)を発足、その団体代表をつとめる
自身が子育てをする中で、子どもたちが真面目に、真剣に、この世界や未来について話しあえるような時間と空間があったらいい、と活動をはじめた
聞き手
◆川上和宏◆
1984年、群馬県生まれ / 大人の秘密基地arcoiris 共同店主
杉並区社会教育センターにて社会教育・生涯学習の企画運営に携わったあと、
2013年にアルコイリスを起業・運営
千葉大学大学院教育学研究科卒、東京学芸大学博士課程満期取得退学
大人向けの哲学対話の場、哲学カフェ@アルコイリス・主宰
その他、この世界について他者と対等に語り合うための場づくりをお店にて実践中